福島原発被ばく労災あらかぶさん裁判 第4回口頭弁論 労災認定は因果関係の重要な裏付けである

『原子力資料情報室通信』第521号(2017/11/1)より

福島原発被ばく労災あらかぶさん裁判 第4回口頭弁論
労災認定は因果関係の重要な裏付けである

10月13日、東京地裁103号法廷で「福島原発被ばく労災 あらかぶさん裁判」1)の第4回口頭弁論が開かれた。北九州在住の原告あらかぶさんは、東京電力福島第一原発の事故収束作業や九州電力玄海原発の定期検査に従事し、急性骨髄性白血病を発症。2015年10月、収束作業に従事した労働者で初めて、被ばくによる労災認定を受け、東電・九電に対して損害賠償を求めて提訴している。被告の東電・九電は、「原告が受けた放射線被ばくと白血病との間に因果関係は認められない」と、国が認定した労災すら否定する内容の主張をしている。
今回原告側は、裁判所から説明を求められていた白血病の労災認定基準の策定経緯を調査して提出した(第3準備書面)。また、あらかぶさんの記録線量19.78mSvが、実際より過小評価されている可能性があると主張した(第4,5準備書面)。
一方、東電と九電の双方から準備書面2が提出された。主に法令による線量管理の方法や作業手順などを説明して、被ばく線量や作業内容に問題はなかったと主張した。これに対して裁判長は、東電・九電の準備書面の証拠や立証が不足していると、被告2社に厳しく指摘した。

 

【第3準備書面】労災認定基準の策定経緯
原子力の時代がこれから始まろうという1960年頃、さまざまな法律や制度が具体化された。当時の専門家は、原発の稼働時または事故発生時に、被害を受ける可能性のある労働者や住民の保護・補償がきちんとなされることを中心に置くべきとの考え方だった。実際に策定された法案や諸施策はそれよりも後退したものになったが、いま一度、当時の専門家たちの考え方に学ぶことは重要だ。
1961年に成立した原賠法の中に、従業員に対する損害賠償の規定は入らず、附帯決議に「原子力事業者従業員が業務上受けた災害は、労働者災害補償保険法のほか、被害者の保護に立法その他の措置を講ずべきである」という文言が入った。
同年11月、原子力委員会に「原子力事業従業員災害補償懇談会」が設置され、翌1962年6月に審議の結果をとりまとめ、原子力委員会に報告した。1)原子力事業の従業員の業務上の負傷、疾病、死亡等に対しては、労働者災害補償制度(労災)による救済が与えられる。遺伝等の影響も十分検討する必要がある。2)認定基準について十分な検討を加えてゆく必要がある。3)離職後の健康診断、職場転換等で、日常の健康管理に特別の配慮をする必要がある。4)労災制度と原子力災害補償制度は同列に比較することは困難である。労災制度は法律が要求する最低基準で、事業者がこれを超える補償措置を講ずることはもちろん可能である、と述べている。

 

12症例通達
1963年、放射線業務における労災認定に関する「12症例通達(基発第239号)」が発出された。12の慢性障害2)の認定に際しては、「被ばく線量の結果にこだわらず、被ばくの可能性を考慮し、業務を離れたあとに発病したものも含む」とされていた。つまり、被ばく線量にはこだわらず認定する方針が示されていた。労災認定基準や原賠法の改定以前は、原発で働く労働者の健康に配慮し、原発労働者の被害を救済する制度設計がおこなわれていた。
1965年5月の第一次「原子力事業従業員災害補償専門部会」報告、1975年7月の第二次報告では、「原子力事業従業員の原子力災害補償に必要な措置について」現行の労災補償制度のもとでは、十分な補償ができないことから改善を求め、「12症例通達」についても改善を求めた。

 

基発第810号通達
1976年11月、現在の認定の根拠となる労働基準局長通達「基発第810号」が発出された。6つの疾病3)については認定基準(症状・被ばく量など)が具体化された。その一つに白血病の労災認定基準が定められ、1)0.5レム(5mSv)×(業務従事年数)、2)被ばく開始後1年以上で発症、3)骨髄性白血病またはリンパ性白血病であること、とされた。
年間5mSvという値は、通達発出時の一般人の被ばく限度である。一般人の被ばく限度を超えて被ばくした労働者が、特定疾患に罹患したときは救済するとの趣旨であったと考えられる。一方、胃がんや肺がんなど、他の原因でも発症するがんについては、疾病認定のための定量的な基準制定が見送られた。白血病など特定の疾患で認定基準が制定されたのは、一定以上の線量を被ばくした場合、発症する蓋然性が高いと考えられたからだ。
基発第810号通達のもとで比較的低い線量で白血病に罹患し、労災認定されているケースが存在することを証拠の一つとして提出した4)

 

原賠法改正(1979年)

従来原賠法の対象ではなかったが、従業員が業務上受けた損害を原子力損害の対象とし、労災制度における保険給付と損害賠償との調整をおこなうこととした。国会の論議では、当時の科学技術庁原子力局長が、「労災の認定基準が原賠法の賠償でも有力な判断材料になる」と再三答弁している。
白血病などの労災認定基準は、原子力損害賠償における因果関係の判断の重要な裏付けであることが、国の解釈として示されていた。

【第4,5準備書面】過小評価された記録線量
原告の被ばく線量は19.78mSvとされるが、正確に算定すればさらに高い値となる可能性がある。福島第一原発4号機カバーリング工事では空間線量が最大2mSv/h、3号機カバーリング工事では最大5mSv/hの現場で作業していた。放射線を全方向から浴びる状況では、人体による吸収などで、個人線量計は被ばく線量の69%しか測定できない。また、電離則に違反して、鉛ベスト(遮蔽率約25%)の下だけに線量計を付けさせられていた。遮蔽されていない下半身、上肢はさらに被ばくしていた。これらを計算すると、玄海原発での被ばくと合わせて36.58mSvになると考えられる。
さらに、福島第一原発の雑固体建屋設置工事は半面マスクで作業していた。今年6月6日、JAEA大洗研究開発センターにおいて、作業員が被ばくする事故があった。半面マスクを着用していたが、プルトニウムなどのα核種24Bqの鼻腔汚染が確認された。すなわち、半面マスクでは浮遊する放射性物質の侵入を完全に防ぐことはできず、内部被ばくする可能性が高い。また、露出する眼球は放射性物質に晒されてしまう。

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原告の労災認定は、国として業務起因性を肯定するという判断をおこなったものだ。事業者側が明確な反証を提出できない限り、因果関係を肯定するべきだ。原告の法的な救済を図る司法判断が求められている。

(片岡遼平)

1)「あらかぶさん」は原告の通称で、魚のカサゴを九州ではあらかぶと呼ぶ。裁判までの経過と概要は、原子力資料情報室通信2017年7月1日号(No.517)参照

2)「12症例通達(基発第239号)」12の慢性障害 ①白血球減少症、②貧血、
③出血性素因、④白血病、⑤白血病様反応、⑥皮膚癌、⑦皮膚潰蕩、⑧慢性放射線皮膚炎、⑨白内障、⑩骨壊疽、⑪骨肉腫、⑫肺癌
基発:厚生労働省労働基準局長通達

3)基発第810号「第2 電離放射線に係る疾病の認定について」
①急性放射線症、②急性放射線皮膚障害、③慢性放射線皮膚障害、④放射線造血器障害、⑤白血病、⑥白内障

4)『原子力市民年鑑2016-17』「原発被曝労働者の労災認定状況」を改訂し、https://cnic.jp/7668に一覧表を掲載。