福島第一原発収束作業 鉛の遮蔽で線量計をカバー 被曝隠しの実態が明らかに

『原子力資料情報室通信』第458号(2012/8/1)より

福島第一原発収束作業
鉛の遮蔽で線量計をカバー
被曝隠しの実態が明らかに

7月21日朝日新聞の報道で、東京電力が発注した福島第一原発事故の収束作業で、下請け会社の役員が作業員に対し、APD(警報付きポケット線量計)に鉛のカバーをつけ作業させていたことがわかった。
この下請け会社は福島県の中堅建設会社「ビルドアップ」で、昨年11月、東京電力がグループ企業「東京エネシス」に発注した工事の下請けに入った。1?4号機の近くに設置された汚染水処理システムの配管・ホースが凍結しないように保温材を取り付ける作業で昨年12月に実施されたという。
報道によれば、11月下旬にビルド社のチームが爆発で飛び散ったがれきが残る現場を下見したとき、あまりの線量の高さに驚き、同社の50代の役員が被曝「低減」の措置を思いついたそうだ。
被曝「低減」策が、高い線量から作業者を守るということではなく、測定器を遮蔽することだったことに愕然とする。22日、朝日新聞が行なったインタビューでは、「(防護用の)『鉛エプロン』や『鉛チョッキ』を使いたいと思ったが、なかった。体全体は防護できなくても、APDだけでもやれば違うのかなと、自分で考えた」と答えている。東京電力は、線量の高い場所での作業における作業者の放射線防護のための用具も十分に準備をしていないのか。
累積被曝線量が高くなった役員が、遮蔽効果が高いとされる鉛でAPDをカバーして被曝線量を偽装し、また1人だけ極端に線量が低くなって偽装が発覚するのをおそれ、いっしょに作業する9人にも強要したという。この「被曝隠し」は、一下請け企業の問題では片付けられない。被曝管理のあり方が根底から問われる問題である。
私たちはこれまでに関連省庁交渉を通じて、収束作業の内容がどのようなものか、作業者の被曝はどのくらいになるのか、今後どのくらいの人員が必要になるのか、基礎的な情報を明らかにすることを求め続け、開示請求をしてきた。しかし、肝心の作業内容は真っ黒の墨塗り状態で公開されない。東京電力と国は基本的な情報をまず国民の前に明らかにすべきである。そして、どのように取り組むべきかを根本から考え直さなくてはならない。
昨年5月16日以来、重ねている関連省庁との交渉は、7月6日、7回目を迎えた。
昨年5月13日、厚生労働省労働基準局長と職業安定局長の連名で、東電などに対して、労働等を適切に明示することなどの要請がなされたが、その後も暴力団関係者の介在や不当なピンハネについての内部告発等の報道が相次いでいる。?抜き打ちで臨検監督し、末端の下請け業者や労働者に労働契約の内容を確認すること、?すでに労働基準法違反で是正勧告した事案があるかないかを明らかにし、あれば詳細を公表すること、?書類を偽造して被曝労働に従事していた事案について、労働基準監督署として事実経過をきちんと調査し、企業任せにしない防止対策を明らかにすることなどを求めた。しかし、すべての面ではかばかしい回答はないままである。
抜き打ちでの臨検監督など私たちが求めてきたことをきちんと実行していれば、今回のような事件は起こらなかったのではないだろうか。厚労省など各省庁は、福島第一原発で困難な作業に携わっている労働者の問題について取り組んでいる市民団体からの問題提起を真剣に受け止めなければならない。

東電任せにしてはおけない被曝線量評価 

東京電力が6月29日公表した「福島第一原子力発電所作業者の被ばく線量の評価について」は、5月末までの線量評価をまとめている。そのデータをもとに2011年3月11日?12年5月31日までの14.5ヵ月間の総被曝線量を計算すると263.07人・Sv(シーベルト)となった。東電社員は8万5426.34人・mSv(作業者数3446人×平均被曝線量24.79mSv)、下請け企業作業員17万7639.88人・mSv(作業者数1万8778人×平均被曝線量9.46mSv)。作業に携わる8割以上が下請け労働者である。
東電によってまとめられた被曝線量評価値が厚生労働省に報告され、健康管理データベースに登録される。50mSvを超える緊急作業従事者には手帳が交付され、国が検診などの費用をもつ。これから先、起こる可能性がある健康被害の補償の問題にかかわる重要なデータである。東京電力による線量評価は正確に行なわなければならない。今回のような「被曝隠し」の問題の発覚で、さらにきびしい目で見直さなければならない。東電任せにしてはおけない。
とくに内部被曝の評価がどのように行なわれているかが気になる。(独)日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構)が事故発生直後から福島第一原発サイト内で働いた作業者の内部被曝の精密測定を実施した。各作業者の摂取状況等を考慮した線量評価は東電が実施し、原子力機構はその評価手法および以後の作業にあたっての被曝管理に関する助言を行なったという。高田千恵「個人線量測定に関する課題」(『保健物理』47巻1号)には、「内部被ばくの『記録レベル』について明確な規定が設定されるべきである」とある。
記録レベルは各社ごとに異なっていて、東電は2mSvであるという。記録レベル未満の線量は放射線管理手帳には記録されないこと自体が問題である。

アンケートに寄せられた労働者の声

7月5日に公表された国会の事故調査委員会(黒川清委員長)報告*では、事故に対応した東電や元請けや下請け企業の作業員へのアンケート調査に現場で苦闘する労働者の生の声がたくさん寄せられている。
被曝労働者の課題では、多重下請け構造の問題に深く切り込むことこそ、国会事故調の役割であったと思う。できていないことを残念に思うが、2415人(回収率約44%)から寄せられた回答からもさまざまな課題が読み取れる。報告書の「参考資料」(193?216p)に調査結果が掲載されている。

(渡辺美紀子)

*国会事故調報告書 以下アドレスからダウンロードできる。
www.naiic.jp/blog/2012/07/05/reportdl/

 

 

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