原発再稼働で電気料金はどうなるのか?―答え 多くはたいして変わらない―

『原子力資料情報室通信』第590号(2023/8/1)より

 ロシアのウクライナ侵攻や、新型コロナウィルス感染症対策の緩和による需要増、円安などから、2022年、石炭やLNGといったエネルギー価格が高騰しました。日本の電力は7割が化石燃料由来のた
め、電力価格も大きく値上がりしました。
 たとえば、東京電力では2021年6月の標準世帯(一月あたり電力消費量260kWh)の電気料金が6,913円でしたが、2023年6月には9,510円、関西電力では同6,724円が7,056円となっています(いずれも負担軽減措置除く)。燃料価格高騰前は、原発再稼働に関係なくおおむね同等でしたが、価格高騰後は差が出ています。2023年2月17日、電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は会見で、「化石燃料の輸入に頼らないという意味で原子力は非常に大きな力になる」として、原発の再稼働を加速すべきだと主張しています。
 エネルギー価格高騰をうけて、中部電力・関西電力・九州電力を除く旧一般電気事業者7社は2023年6
月に電気料金(規制料金)を値上げしました。原発再稼働できている事業者は値上げを抑えられている
ように見えます。でも、伊方3号機を再稼働した四国電力は今回値上げ申請を行っています。一方、再
稼働していない中部電力は値上げ申請を行っていません。つまり、すべての事業者で原発再稼働が電気
料金値下げに効果があるかどうかは検証してみないとわからないのです。そこで、原発再稼働を前提に
した値上げ申請を行っている事業者(東京電力・東北電力・中国電力)の値上げ申請から、原発再稼働
の値下げ効果を検証してみました。

◆東北電力
 東北電力は2024 年2月に女川2号機を再稼働する計画です。規制料金値上げ申請では当面3年度分の平均コストを算定することになっていますが、東北電力の場合、女川2号機再稼働によって、年38.67億kWh発電し、結果、外部からの電力調達コスト減が811億円、再稼働によるコスト増が439億円あるので、差し引き327億円分の値引き効果としています。
  一方、 総原価( 発電事業にかかる総費用)は19,743億円、販売電力量は687億kWhと想定されています。原発が再稼働しなかった場合は値引き分を足せばよいので総原価は20,070億円になるということです。単価でみれば、再稼働時が28.74円/kWh、再稼働しなかった場合は29.21円/kWhですので、差額は0.48円/kWh、標準世帯の電力消費量は260kWhなので、124円の値下げ効果に過ぎません。
◆東京電力
 東京電力は2023年10月に柏崎刈羽7号機を、2025年4月に同6号機を再稼働する計画です。これによって、年119億kWh発電し、結果、外部からの電力調達コスト減が2,500億円、再稼働によるコスト増が1,600億円あるので、差し引き900億円分の値引き効果としています。
 一方、総原価(発電事業にかかる総費用)は55,919億円、販売電力量は1,902億kWhと想定されています。原発が再稼働しなかった場合の総原価は56,819億円になるということです。単価でみれば、再稼働時が29.40円/kWh、再稼働しなかった場合は29.87円/kWhですので、差額は0.47円/kWh、標準世帯の値下げ効果は122円に過ぎません。
◆中国電力
 中国電力は2024年1月に島根2号機を再稼働する計画です。これによって、年45億kWh発電し、結果、火力炊き減らしなどでのコスト減が740億円、再稼働によるコスト増が380億円あるので、差し引き360億円分の値引き効果としています。
 一方、総原価(発電事業にかかる総費用)は13,155億円、販売電力量は468億kWhと想定されています。原発が再稼働しなかった場合の総原価は13,515億円になるということです。単価でみれば、再稼働時が28.11円/kWh、再稼働しなかった場合は28.88円/kWhですので、差額は0.77円/kWh、標準世帯の値下げ効果は200円に過ぎません。


値下げ効果が小さい理由
 関西電力と東京電力の電気料金を比べると2,000円もの差が出ています。それなのに、原発を再稼働
の値下げ効果が小さい理由は何でしょうか。その最大の理由は、販売電力量に占める原発のシェアです。
 関西電力の総販売電力量に占める原発比率は20.5%(2022年度)ですが、今回の値上げ申請で見ると、東京電力は6.3%、東北電力は5.6%、中国電力は9.6%でしかありません。原発で削減できる火力発電の規模はそれほど大きくないのです。また再稼働のための追加コストや停止中の維持費なども含めて考えれば、原発は経営上お荷物なのです。それでも再稼働を前提に追加投資してきた以上、原子力事業者に撤退するという選択肢はありません。
 では、今後、たくさん再稼働していけば、値下げ効果は大きくなるでしょうか。一定の前提をもとに、柏崎刈羽原発2~7号機が再稼働した場合の発電コストを検証してみました。すると、原発の発電電力量は427億kWh、発電単価は17.05円/kWhになると推定できました。販売電力量に占める原発比率は22.5%と関西電力を上回ります。東京電力の想定市場電力価格は20.97円/kWhなので、市場で調達するよりも原発で発電したほうが安くなり、差し引きでは約1,700億円の値引き効果があることになります(kW当り0.89円/kWh)。しかし、2020年度から2022年度の平均市場価格は14.82円/kWhでした。市場価格を高く設定しているからコストメリットが出せているように見えているだけという可能性も否定できません。市場価格が過去3年平均程度で推移した場合、市場調達したほうが安いということになりかねません。
 また、原発が動くかどうか関係なく電気料金に上乗せされている原発の維持費も無視できません。原
子力事業者各社の有価証券報告書から、当該年度、1kWhも原発で発電しなかった事業者の原発維持費
を累計すると、2011年度から2021年度計で12.62兆円に上ります。原発がどんどん再稼働できるとい
う状況でもなく、今後も、未稼働原発の維持費分、電気料金が高くなる状況が続きます。
 ところで、四国電力は原発再稼働したのに値上げを行いました。2023年6月の標準世帯の電気料金
は9,165円(負担軽減措置除く)と、東京電力などと同程度の価格です。四国電力の原発発電電力量は
63億kWh、総販売電力量は224億kWh。原発シェアは28%と、関西電力を上回る比率です。なぜ原発
を再稼働したのに値下げ効果は少ないのでしょうか。
 答えは、再稼働基数にあります。関西電力は未廃炉原発7基中5基が再稼働しましたが、四国電力は1
基のみで、他は廃炉となりました。再稼働原発が多いと、コストが分散できますが、四国電力は1基し
かなくコスト分散ができません。エネルギー価格が高騰しているのに原発再稼働による燃料費削減効果
が出ていないということは、四国電力の原子力事業は相当コスト高だということです。四国電力にとっ
て、原発はコストが高すぎる投資だったのです。再稼働できる原発や事業規模の小さい事業者は同じ状
況に陥る可能性があります。
 では規模の大きな事業者が原発を増設するとどうでしょうか。実はこれも厳しいのです。これまでも
原発の新設コストは大きな課題でしたが、近年の世界での1基あたり1兆円~2兆円という原発新設コ
ストはとても負担できるものではありません。そこで政府は原発建設費を電力消費者全体に負担させる
仕組みを検討中です。これも電気代増加要因です。原発によるコスト削減効果は過大評価されてきました。原発に過大な期待を寄せるべきではありません。

※2023年5月1日、CNICブリーフ「122円 過大評価される原発再稼働」を発表しました。こちらもぜひご覧ください。
cnic.jp/47001

(松久保 肇)



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