原発の寿命延長をめぐって―パブコメから

『原子力資料情報室通信』第593号(2023/11/1)より

政府は、脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るためにと称して、電気事業法の一部を改正するという。そのために、さる7月6日から8月4日までの30 日間、意見公募(パブリックコメント)*をおこなった。8月30日付けでその結果が原子力規制庁から公表された。
*「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う実用発電用原子炉の置、運転等に関する規則等の改正案等に対する意見公募の結果」

 ここでは、(1)行政手続法第39条第1項の規定に基づく意見公募の実施結果と、(2)任意の意見公募の実施結果をとりあげる。
(1)公募の対象として、
• 実用発電用原子炉の設置、運転に関する規則及び研究開発段階発電用原子炉の設置、運転に関する規則の一部を改正する規則
• 実用発電用原子炉の長期施設管理計画の審査基準
の2つが主たる対象であり、提出意見は186件。
(2)実用発電用原子炉の長期施設管理計画の記載要項が対象で、提出意見は52件。
 気になるのは、寄せられた意見のうち、提出意見に該当しないと判断されたものが(1)で28件、(2)で13件、計41件もあることだ。いかなる理由かは分からない。紙幅が限られているので、主な意見とそれに対する原子力規制庁の「考え方」とを紹介する。
表現は意味を損ねないように短縮し、また、いくつかを合わせて記述する。

1 の行政手続き法に基づく意見公募について
❶意見:劣化評価などの方法も事業者に求めるようになっていて、規制側が責任をもって提示するようになっていない。大きな違和感と国の無責任さを感じる。
▶▶考え方:規制基準への適合を立証するのは事業者の役割であり、原子力規制委員会の役割は、必要の水準の安全性が確保されるよう、最新の科学的・技術的知見を取り入れながら規制基準を定め、それへの適合性について、審査・検査等を通じて厳正に実施することです。認可の基準に適合していることが確認できない場合は、事業者は原子炉を運転することはできません。
❷意見:原子炉施設を使用していない期間も劣化が見込まれる。使用の履歴を限定することは評価範囲を狭める要因になり得る。
▶▶考え方:経年劣化について評価の対象には、原子炉停止状態にある間も進展するコンクリートやケーブル等の劣化も含まれており、運転が見込まれる期間にわたって評価することを求めています。
❸意見:原子炉の長期施設管理計画の審査基準は6事象(注)だけでいいのか?見落としがあって事故が起きた場合の責任を明確に書くべきではないか。
▶▶考え方:全ての安全上重要な機器・構造物を適切に抽出し評価することにしており、主要6事象に限定しているのではありません。なお、IAEAの基本安全原則には「安全確保の一義的責任は事業者が負う」とあり、原子力規制委員会は、事業者から提出があった申請書において、これらが適切に抽出・評価されているか、審査において厳正に確認します。
(注)6事象:低サイクル疲労、中性子照射脆化、照射誘起型応力腐食割れ、2相ステンレス鋼の熱時効、電気・計装品の絶縁低下、コンクリート構造物に係る強度低下及び遮蔽能力低下の6つの事象を言う。

❹意見:原子力規制委員会は、監視試験カプセルの取り出しについて、暦年ではなく中性子照射量に応じたものにするようにとの事業者側の要求に応じるようだが、「JEAC4201―2007」は設計寿命40年を想定して策定されたものであり、その案は容認できない。
 中性子照射脆化は、①圧力容器鋼材に中性子が当たり結晶を壊し空孔や格子間原子などの1次欠陥を作り出す。②その1次欠陥が結晶中を動き回って、空孔クラスター・格子間クラスター・銅クラスターなどを形成し、結晶を硬化させる。原子炉の運転を停止すると、①のプロセスは止まるが、②のプロセスは多少なりとも進行すると考えられる。それがどの程度なのか、実験的に調べる研究はなされていない。
▶▶考え方:原子力規制庁から、原子炉が長期間止まっている場合でも暦年で監視試験を実施するのは合理的ではなく、中性子照射量に応じた実施時期とする見直しをするとの方向性が示されて原子力規制委員会で議論しました。中性子照射脆化は中性子の照射によって材料が劣化する事象であるため、停止期間中には劣化は進展しないものであり、中性子照射量に応じて監視試験をすることが合理的なものと考えています。
❺意見:原子力規制委員会は、BWRでは加圧熱衝撃評価を不要として欲しいとの事業者の要求に応じ、「原子力圧力容器が損傷する恐れのある場合」の文言を追加したが、これを撤回すべきである。
 加速照射の場合、照射脆化の程度が小さく、過小評価になることが明らかになっている。このことも考慮して、第三者の専門家の検討などもなしに事業者側の要求に一方的に従うことは許されない。
▶▶考え方:検討チームでの議論を踏まえ、BWR、PWRに限らず加圧熱衝撃のおそれがあるかどうかを示すことを事業者に求めています。BWRについて評価をしなくてよいとするものではありません。具体的には、原子力規制委員会が長期施設管理計画の審査において確認します。
❻意見:7/18の阿部とも子さん主宰の規制庁ヒアリングで、経年劣化事象として「設計の古さ」が話題になりました。「当該規定に適合しない場合であっても?これを排除するものではない」とすることは、決して安全側に働くものではありません。
▶▶考え方:審査基準を決めた時点から、技術的な改良・進歩等があり新しい技術を導入しようとする場合、規定に記載がないからといって、これを排除するものではありません。進歩を反映して柔軟に取り入れることができるように規定しているものです。

2 任意の意見公募について
 ここでは、関連する代表的な2つの意見と考え方について、紹介する。
❼意見:今回の改正案そのものに反対という意見で、その理由を縷縷あげている。
• 3・11を経験して、「廃炉」への見通しもなく、再生可能エネルギーに切り替えるべきである。地球温暖化対策として原発を使うことが不適切である。ドイツに見習うべきである。
• 石渡発言を支持する。科学的新知見無しだから炉規法を変える必要なし。「改正案等」に反対する理由は、昨年10月からの規制委定例会議前に、原子力規制庁と資源エネルギー庁との6回以上の秘密会議がおこなわれていた。規制委設置法に違反していた。原子力規制委員会・原子力規制庁が「規制の虜」と化していた。
• 高浜4号の緊急停止など老朽原発のトラブルが絶えない。老朽原発の稼働は超危険。
▶▶考え方:今回の法改正は利用政策の観点からであり、高経年化した原子炉の安全規制を引き続き厳格に実施できるようにするためのものです。長期施設管理計画が認可の基準に適合していると確認できない場合、事業者は原子炉を運転できません。
❽意見:古くなった電気協会の規格を使い続けるのか。
 中性子照射脆化の監視に際して、日本電気協会の2つ の 規 格「JEAC4201-2007」 と「JEAC4206-2007」とが使われている。前者については2011年に予測式の誤りが指摘され、改定が求められたが、未だ、なされていない。後者についても、温度シフトのやり方が正しくないことが明らかになっている。「設計の古さ」の一つとして規格・規定の古さも問題にすべきだ。この不備が解消されない限り、老朽原発の運転を止め、審査を中断すべきである。
▶▶考え方:指摘された2つの規格については、それぞれ技術的妥当性を確認した上で引用し、適用に当たっての条件を付して規制要求としています。また、「JEAC4206-2007」に用いられている破壊靭性遷移曲線の算出式については、現時点でこれを否定する技術的根拠は見出されていないことから、引き続き使用することは問題ないと確認しています。
 「JEAC4201-2007、(2013年追補版)」については、基本モデル式の係数を最適化した多項近似式と捉えても差し支えないとの認識の上で、検討し、規制に用いることが可能と判断しています。
 福島原発事故をおもく受け止めて、法改正の案に批判的な意見がほとんどであった。「考え方」は、適合性審査をしっかりやりますという、建前論に終始している。ぜひ、報告書の全文に目を通して頂きたい。4月~6月、当室が主宰した連続ウエビナー「原子炉の老朽化の現状と原因」全9回は、パブコメ提出に役立ったと思われる。また『原発の老朽化はこのようにー圧力容器の中性子照射脆化を中心にー』(原発老朽化問題研究会著、5月、当室発行、アグネ技術センター発売)は、寄せられた意見のなかにたびたび引用されていたことを付記する。   

・原子力資料情報室連続ウェビナー「原子炉の老朽化の現状と原因」(アーカイブ視聴リンク、講演資料リンクあり) cnic.jp/46681

・『原発の老朽化はこのように 圧力容器の中性子照射脆化を中心に』(原発老朽化問題研究会著/原子力資料情報室発行) cnic.jp/books/46972

(山口 幸夫)

 

  

        

 

 

 

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