タニムラボレターNo.016 ひとつの測定値は集団を代表しない
『原子力資料情報室通信』第473号(2013/11/1)より
ひとつの測定値は集団を代表しない
放射能検査結果に付随している不確かさは原子崩壊のゆらぎによるものだけではありません。試料の採取地点や生育履歴、含水率などによっても結果が変わります。抜き取り検査の測定値が変わる要因は、①試料の代表性(集団を代表する値として適切か)、②試料の状態、③測定方法に整理されます。
2013年7月、茨城県日立市沖で捕れたスズキから1kgあたり1,037ベクレル(Bq)の放射性セシウムが検出されたと報道されました。これを受けて茨城県沖で捕れるスズキが危険と言えるでしょうか。試料の代表性について、以下に詳しくみていきます。
水産庁発表のモニタリング結果によると、2013年度のスズキの検査件数は374件、そのうちセシウム濃度合計が100 Bq/kgを越えたものは10件です*1。結果をセシウム濃度の頻度分布がわかるようにグラフにしたものが下図です。採取地を区別しない場合は20~40 Bq/kgを最大頻度として右側(高濃度側)に裾野が広がった(山型の)分布になり、低頻度ですが高濃度のスズキがしばしば検出されていることが分かります。100 Bq/kgを越えた採取地を調べると全て福島県沖でした。
一方、茨城県沖で捕れたものだけに着目すると(グラフの黒棒)20~40 Bq/kgを中心とした、ほぼ左右対称の分布でした。
以上のことから『茨城県沖で捕れるスズキは主に20~40 Bq/kgを中心とした濃度の広がりを持ち、基本的にはすべて規制値以下だが特異点として1,000 Bq/kgを超えるものが1件検出された。これは茨城県全体を表すものではない』と判断できます。
この例は食品放射能の抜き取り検査結果が規制値以下でも集団全体が安全と言えないことも示唆しています。放射性物質が食品へ移行するメカニズムが明らかになるまでは、対象集団の汚染度分布が明らかにされない限り、全数検査をしなければ全体の安全は保証できないはずです*2。
*1:水産省「水産物の放射性物質調査の結果について」 データ期間は2013年4月以降10月9日まで
*2:原子力資料情報室通信461号参照
(谷村暢子)