英仏に保管されている日本のプルトニウムの保障措置状況
日本は長年にわたり、英国とフランスに使用済み燃料の再処理を委託してきた(表1)。委託した使用済み燃料の再処理自体は両国とも、すでに終了している。再処理によって取り出されたプルトニウムはMOX燃料に加工して返却、また再処理時に製造されるガラス固化体も返却される。現在フランスにあるプルトニウムはMOX燃料にして徐々に送り返されている。一方、英国はMOX燃料工場を建設したもののトラブル続きで閉鎖した結果、プルトニウムの輸送方法がないため、英国内で貯蔵中だ。
2020年12月末現在の日本のプルトニウムは英国に21,805kg、フランスに15,411kg、日本国内に8,854kg保管されている(図1)。プルトニウムは核兵器に転用可能な物質であり、通常、厳重な保障措
置が行われている。しかし、英仏両国は核兵器保有国であることから、両国における保障措置は限定的
だ。日本は自国のプルトニウムの管理状況に責任を負うべき立場であることから、英仏両国に保管され
ているプルトニウムの保障措置状況を把握している必要があるはずだ。
英仏の保障措置状況
だが、2021年12月に提出された「英国およびフランスに保管されている日本が保有するプルトニウムの保障措置状況に関する質問主意書」(逢坂誠二衆議院議員、立憲民主党)に対する政府答弁書からは、日本政府の当事者意識が全く見えてこない。日本のプルトニウムに対する保障措置について、①両国のプルトニウムと分別管理されていたか否か、②EURATOM(欧州原子力共同体)とIAEA(国際原子力機関)は保障措置を共同実施していたか、③英国のEU離脱後の保障措置はどのように実施されているか、との質問について、いずれも、「我が国政府としてお答えする立場にない。」と答えている。
日本政府の不透明なプルトニウム利用政策
日本は、国連総会に毎年提出している核軍縮に関する決議案で、国際社会に対して核軍縮のためには透明性及び相互の信頼を向上させる具体的措置をとることが重要だと訴えてきた。その一方で、日本は、核兵器の材料になるプルトニウムを使用済み燃料から取り出して利用する核燃料サイクル政策を推進している。その中心となる日本原燃の六ヶ所再処理工場が2022年度上半期に竣工を予定している。六ヶ所再処理工場は、毎年、約8トン(IAEAの計算方法に従えば核兵器1,000発分)を抽出する能力を持つ。現在再稼働している原子炉10基のうちでMOX燃料利用炉は4基しかない。その年間消費量は最大2トン程度だ。透明性の向上や信頼醸成の重要性を訴える一方で、自国のプルトニウムについては明確に説明しない姿勢が、今回の質問主意書でのやり取りからも明らかといえよう。
日本のプルトニウム保有および再処理・濃縮技術は長らく国際的な懸念の的となってきた。報道などから米国政府も日本の核兵器開発能力を懸念していることが明らかになっている。外交専門誌フォーリンアフェアーズが行った有識者アンケートでは、複数の研究者が次の核兵器保有国として日本を名指ししている。中国や北朝鮮も、公の場で日本の核物質の貯蔵状況などについて懸念を表明してきた。
こうした懸念を日本が逆手に取っているという傍証もある。たとえば、国連大使や日本国際問題研究所理事長を歴任した佐藤行雄は著書『差し掛けられた傘』(2017年/時事通信社)で「結論的に言えば、日本の核武装の可能性についての外国の懸念は払拭し切れるものではない。また、米国については若干の懸念が残っていることも悪いことではないとすら、個人的には考えている。米国が日本に核の傘を提供する大きな動機が日本の核武装を防ぐことにあると考えるからだ」と述べている。
また、日本は国内外に対して、プルトニウムの保有量の削減方針(2018年、原子力委員会「プルトニウム利用の基本的考え方」)を示している。だが、具体的にどうするのかは明確にされていない。例えば、「我が国は…プルトニウム保有量を減少させる」としながら、海外に保管されているプルトニウム、とりわけ、MOX加工の見込みのない英国保管分の約22トンのプルトニウムの処理方法も検討状況を明らかにしていない。その一方、発生した使用済み燃料の全量再処理方針を堅持し、六ヶ所再処理工場を40年間運転し32,000トンの使用済み燃料を再処理するという方針を崩していない。原発の再稼働状況や、MOX燃料を使うプルサーマル炉の状況に鑑みれば、この再処理量を維持した場合、長期的に大量のプルトニウムを保有し続ける状況が解消できないことは明らかであるにもかかわらずだ。さらに、日本原子力研究開発機構(JAEA)の保有する新型転換炉ふげん(廃止措置中)から出た使用済み燃料731体について、フランスの再処理施設に輸送する方針も示している。再処理すれば1,329kgのプルトニウムが取り出されるが、この使い道も明らかではない。将来的には高速増殖炉もんじゅの使用済み燃料530体も再処理する方針を示している。このように日本は極めて無責任な態度に終始しているといえる。
このような状況では、日本は経済的合理性のない再処理政策を維持する意図をわざとあいまいにしているのではと海外から受け取られても仕方がないだろう。日本は、諸外国に対して核に関する透明性・相互信頼の向上を訴えているが、その真意が疑われることにもつながる。新型コロナウィルス感染拡大のため、今年1月に予定されていた核不拡散条約運用検討会議は4度目の延期となった。8月に開催されるとみられるが、日本政府は透明性・信頼醸成の重要性を訴える上でも、自国のプルトニウムの透明性の向上、信頼醸成の観点から、六ヶ所再処理工場の稼働の無期限延期を表明し、英仏にある日本のプルトニウムの保障措置状況について明らかにするべきだ。
(松久保 肇)