【連載】水道水のセシウム濃度調査 第9回 江戸川上流からの河川水調査

【連載】水道水のセシウム濃度調査 第9回 江戸川上流からの河川水調査

昭和30年代、経済成長に伴う人口の増加や生活の多様化により水道水の需要が増加し、首都圏は深刻な水不足に陥りました。これを解消するために、流量の豊かな利根川と少ない荒川の間に武蔵水路がつくられ、1967年に完成しました。
武蔵水路の平均流量は毎秒40 m3です。荒川の平均流量をみると、武蔵水路との合流地点よりすこし上流で毎秒10 m3、下流で毎秒50 m3です。1)荒川中流以下の河川水の大部分は利根川からきた水だといえます。一方、江戸川は埼玉、茨城、千葉の境界付近で利根川から分岐して南へ流れる川で、河川水はもともと利根川のものです。
それにもかかわらず、河川水の放射性セシウム濃度は、荒川(秋ヶ瀬取水堰:地図D)よりも、江戸川(柴又公園:地図C)が倍以上も高い値でした(本誌528号)。由来は同じ利根川の水なのに、なぜこれほど違いがあるのか。それを考えるために、江戸川の上流から3か所の河川水を調査しました。採取地点を右図に示します。Aが利根川と江戸川の分岐地点(関宿水門:海から約60 km)、Bが海から約40 km(清水公園付近)、Cは海から約15 km(柴又公園)です。
河川水に含まれる放射性セシウム濃度は、A地点で1.5、B地点で2.1、C地点で3.8でした。採取日は異なりますが、利根川の水がたっぷり含まれた荒川河川水(D地点)の濃度は1.8でした(単位はmBq/kg)。
この調査結果から、予想通り利根川河川水が主体のAとDは同等の汚染レベルで、江戸川は下流にいくほど放射能汚染が進んでいることがわかりました。ということは、江戸川河川水の汚染における寄与は、利根川上流域よりも下流域の市街地からのものが大きいと考えられます。福島原発事故でフォールアウトして、土壌などに吸着して川底に堆積している放射性セシウムが、水へ再溶出する寄与も多少はあるかもしれません。
市街地から河川へ、放射性セシウムの新たな供給がそんなに発生しているのでしょうか。路面の材質と放射性セシウムの流出量を調査したチェルノブイリ原発事故後のオーストリアの研究では、砂利はほとんど濃度の減少がないのに対し、アスファルトやコンクリートは流出が速いことが示されています。2)利根川上流域の森林から河川へと流入する放射性セシウムよりも、首都圏の市街地から、降雨や人的活動に伴って移動する放射性セシウムの影響が大きいのだと考えられます。
東京の水道水が全国でもっとも放射能汚染している原因はこんなところにあるのかもしれません。
(谷村暢子)

図(上):河川水の採取地点  表(下):河川水のセシウム137濃度
20(A,B,C)および40(D)Lの試料を、リンモリブデン酸アンモニウム法で濃縮した後、ゲルマニウム半導体検出器で20時間ガンマ線測定した。測定は新宿代々木市民測定所による。8~16%の測定誤差を含む。

1)「荒川太郎右衛門地区自然再生事業 自然再生全体構想」、荒川太郎右衛門地区自然再生協議会、平成18年5月
2)K. Mueck and F. Steger(1991), Wash-Off Effects in Urban Areas, Radiation Protection Dosimetry, 37(3), pp189-194.